ECサイトを運営しているとこうした悩みはつきものですが、その原因は、一人ひとりの顧客に最適な情報やサービスを提供する「パーソナライズドマーケティング」ができていないことにあるかもしれません。
本記事では、大企業を中心に世界中のECサイトに導入されているECプラットフォーム「Salesforce Commerce Cloud」を活用した、パーソナライズドマーケティングの具体的な方法などについて解説しています。
「Salesforce Commerce CloudでのAI活用方法を知りたい」「パーソナライズ戦略の実践方法を知りたい」という方はもちろん、「Salesforce Commerce CloudでECサイト構築を検討している」という方も、ぜひご一読ください。
Salesforce Commerce CloudでAI活用のパーソナライズ戦略
パーソナライズドマーケティングとは、一人ひとりの顧客に最適な情報やサービスを提供するマーケティング手法です。
全ての顧客に同じ内容のアプローチをするのではなく、個人の属性や興味、購買行動の履歴などから顧客のニーズを把握し、顧客一人ひとりに対して最適な情報やサービスを提供します。
パーソナライズドマーケティングの主な施策は、以下の通り。
・パーソナライズド広告
・メールのパーソナライズ化
・ECサイトでの商品リコメンド表示
・SNSでのパーソナライズ表示、など
こうした施策により期待できる効果は、主に次の2つになります。
潜在客の見込み客化
自分自身の隠れた需要や欲求を把握できていない潜在客に対し、個人の属性や無意識の行動履歴をベースにした最適な商品などを提案。そのニーズを明らかにし、潜在客にとっても価値のある商品を提供できるのだとアピールすることで、新たな見込み客獲得が可能に。
顧客からの信頼度向上
適切なタイミングでパーソナライズした情報を発信し続ければ、顧客との信頼関係を構築することができ、顧客満足度の向上が期待できます。
また、顧客からのフィードバックを受けて、顧客の要望に沿った商品展開も可能になるでしょう。
Salesforce Commerce Cloud(セールスフォースコマースクラウド:SFCC)は、顧客管理(CRM)ツールとして世界中で利用されているSalesforce製品の一つで、ECサイトの構築時に利用できる、マルチテナント型クラウドベースのプラットフォームです。
提供される機能は豊富で、製品管理から在庫管理、CRM、マーケティングツールなど、ECサイトを構築・運営する事業者にとって、必要な機能がほぼすべて整っているコマースプラットフォームと言えるでしょう。
なかでも「Einstein」(生成AI)による高度にパーソナライズされた商品レコメンデーションは、CVRの大幅な向上が見込める機能です。
ECサイトのあらゆるページでおすすめ商品をパーソナライズ表示したり、検索キーワードの類似商品をリアルタイムにリコメンド、顧客セグメントに応じたメール文を作成したり、ターゲティング広告配信が可能にするなど、すべてのチャネルでそれぞれのユーザーに合ったショッピング体験の提供を実現します。
SFCCを利用すれば、人力でユーザーの行動や売上データを分析する必要はありませんし、社内に専任のデータサイエンティストがいなくても、こうしたパーソナライズドマーケティングが自動で実現できるようになります。
AIとデータ分析を使った顧客セグメントの作り方
セグメントとは、属性によってユーザを区分したグループのことです。競争が激しい市場において、企業のマーケティング戦略を強化するための重要な手段です。
消費者のニーズが多様化している昨今、これまでの一律的なマスマーケティング手法の効果は薄れつつあり、特定の市場に絞り込んだアプローチが求められています。
市場をより小さなグループに細分化し、各グループの独特なニーズ、願望、行動パターンを特定することで、AIを使って顧客一人ひとりに合わせた製品やサービスを提供することが可能になり、より効果的なマーケティング戦略を展開できます。 また特定のセグメントにターゲットを絞り、関連性の高い広告のみを打ち出せば、無駄な広告費用を削減すると同時に、高い投資利益率(ROI)も見込めるようになります。
顧客のニーズや要望を見極め、効果的なマーケティング戦略を構築するためにセグメントは欠かせません。自社の商品やサービスを販売するために「どの消費者層に向けて、どのようなアプローチをすればよいか」を、明確にしましょう。
以下では、よく知られているセグメントの代表的な基準についてご紹介します。
地理的変数
地理的な要素を基準としたセグメントを行う際に用いる変数で「ジオグラフィック変数」とも呼ばれます。地域ごとの市場の特性や消費傾向を把握し、それぞれの特有のニーズに対応したマーケティング戦略の立案に役立ちます。
具体的には「国」「市区町村」などに加え、「気候」「地形」「人口規模」などが挙げられます。 地元の文化や、特定の地域で人気の味覚やトレンドを取り入れた製品の提供や、マーケティング戦略の展開にも効果的です。
人口動態変数
年齢や性別、職業、学歴、家族構成、所得水準などの消費者の客観的な属性で分類する変数で、「デモグラフィック変数」とも呼ばれます。
代表的な分類としては、「年齢」「性別」「家族構成」「居住地」「職業」「収入」「最終学歴」などが挙げられます。
自動車や住宅などで、所得水準に応じて商品のラインナップを設定する業界で主に用いられます。また、不動産業界では家族構成、スーツ業界では所得などがセグメンテーション変数として利用されています。
心理的変数
価値観や趣味嗜好など、顧客の心理や感性に基づいた変数で、「サイコグラフィック変数」とも呼ばれます。接客やアンケートなどを通じ、ライフスタイル・価値観・趣味・パーソナリティー・購買動機など、消費者の内面的な要素を理解し、心理に訴えかけるマーケティング戦略の策定に役立ちます。
ファッションのように、個人の好みや価値観が消費の軸になる分野の市場細分化に役立ち、具体的には「アウトドア派またはインドア派」「高級志向または節約志向」「社交的または内向的」「進歩的まはた保守的」といった分類になります。
行動変数
顧客の購買行動パターンを指標とする変数で、「ビヘイビアル変数」とも呼ばれます。具体的な分類としては、「過去の購買状況(購買経験の有無など)」「使用頻度(ヘビーユーザーなど)」「求めるベネフィット(ステータス、コスト・パフォーマンスなど)」「購買パターン(購入意思決定者など)」「返品に対する態度(返品頻度が高いなど)」といったものがあります。
「新規顧客とリピーターで施策を変える」「一般顧客とロイヤルカスタマーでキャンペーンを変える」「使用頻度や方法の違いで施策を変える」など、異なる行動パターンを持つ顧客グループに対して、それぞれに応じたマーケティング戦略を展開することができます。
たとえば、購買頻度が高い消費者にはリピート購入を促すプロモーションが有効ですし、ブランドロイヤリティが高い消費者には、新製品の紹介やブランドイベントへの招待などが効果的な施策といえます。
これまで、販売やセールスという業務は、勘や経験則に頼る部分が大きいものでした。しかし、CRMを活用して顧客を分析してセグメントすることで、データという根拠にもとづく、ロジカルなマーケティングとセールスが可能になります。
パーソナライズされた顧客体験でコンバージョン率を高める方法
SFCCを活用すれば、あらゆるページで一人ひとりの趣味嗜好に応じたおすすめ商品を表示したり、検索キーワードの類似商品をリアルタイムにリコメンドするなど、すべてのチャネルでそれぞれのユーザーに合ったショッピング体験を提供することで、コンバージョン率(CVR)の向上が期待できます。
具体的には以下のような施策が実施可能です。
AIを用いた商品リコメンド
たとえばWEBサイトのパーソナライズでは、初回訪問した匿名顧客のページ閲覧履歴やマウスカーソルの動きを記録しておき、後日訪れた際、その履歴をもとにページ内の情報を差し替えることが可能。
またECサイトにおいて、商品閲覧履歴に基づいて別の商品をレコメンドする際、同時に過去にどんな商品を購入したかなどの情報をAIが解析し、判定することも可能です。
アンケート結果をパーソナライズに反映
顧客の意見を吸い上げる方法として簡単なアンケート機能を利用。WEBサイトやアプリ上で、一部顧客に対して質問を投げ、その結果をパーソナライズに反映させることで、顧客はアンケートを意義あるものとして捉えてくれるようになります。
アプリとWEBサイトで連携してパーソナライズ
アプリで商品について検索して、最終的な決済はPCのWEBサイトで行うといった購買行動をとる顧客のために、情報をアプリ〜WEBサイト間で連携させることで、顧客はより簡単に商品購入が可能になります。また、購入後に関連商品をアプリで再び表示できれば、追加購入の可能性も高まります。
Salesforce Commerce Cloudでのパーソナライズ戦略の実践
ここでは、SFCCを活用したパーソナライズドマーケティングを実践している企業の事例をご紹介します。
2年でレコメンデーションの売上3.2倍を達成|株式会社三越伊勢丹
「MOO:D MARK」の最大の特徴は、優れたレコメンデーション機能を備えていること。AIのEinsteinが、導線・閲覧・購買などのお客様の行動をリアルタイムに分析し、商品一覧や検索結果を一人ひとりに最適化した並び順で表示しています。
その結果、「MOO:D MARK」のサイトの売上全体に占めるEinsteinのレコメンデーション経由の売上は、平均で40%、最高で48%を記録。また、サイトオープン翌年の2020年とそれから2年後の2022年を比較すると、レコメンデーションによる売上は実に3.2倍に伸びています。
こうしてSFCCを導入したギフト特化型ECサイト「MOO:D MARK」は、現在ではグループ内で成長事業として期待されています。
“個客”の潜在ニーズに応える提案で売上前年比110%の成長を果たす|富士フイルム株式会社
マーケティング改革のさきがけとしてECサイトにSFCCを導入し、フォトイメージング事業において、それまでバラバラだった顧客との接点をCommerce Cloudで統合しています。
さらに、単に写真アルバムを製本して顧客に販売するという従来の”モノ売り”から脱却するため、Einsteinによるレコメンド機能を活用。たとえば各顧客のフォトライフをAIで想定して写真雑貨をセット販売するなど、「本当はこういうものが欲しかったんだ」という、いわゆる“個客”の潜在的なニーズに応える最適な提案が可能に。
さらに商品の注文時や到着時という開封率の高いタイミングに合わせてメールを送るなど、“個客”とのエンゲージメントを強化するためのさまざまな施策を展開しています。フォトイメージング市場自体が縮小する中、同社のECサイトの売上は、前年比110%という二桁成長を達成しています。
グループ一体となって顧客体験を高める取り組みを実践|西日本旅客鉄道株式会社
顧客体験の再構築にあたり、グループ顧客基盤としてSalesforceを採用しています。 それまでは鉄道事業、ホテル事業、駅ビル事業など、事業ごとに独自の顧客システムを運用してきたため、顧客体験を高める取り組みをグループ一体となって実行することは困難でした。この状況を改善するためにSalesforceと顧客データを連携することで、柔軟なセグメンテーションを実現。
新幹線予約を利用した会員に対し、乗車駅および降車駅で使用できるクーポンを配信するなど、顧客一人ひとりに「タビマエ/タビナカ/タビアト施策」を実施しています。
さらに2024年4月、SFCCを基盤とするECサイト「WESTERモール」をオープン。顧客一人ひとりに最適な提案をすることができ、このモールを通じて顧客理解を深めることも可能に。将来は体験系商品を取り扱うなど、JR西日本らしいショッピングモールへと育てていきたい考えです。
【まとめ】Salesforce Commerce CloudでAI活用のパーソナライズ戦略
効率的にセールスするためには、優先順位の高い顧客から優先的に販売をしていく必要がありますが、従来こうした優先順位付けは、日々顧客と接するスタッフの経験や勘に頼るしかありませんでした。
しかし昨今は店頭や電話などに加え、ECサイトやSNSなどチャネルが多様化しており、これらの接触機会を複合的にとらえて、優先順位付けをする必要があります。 SFCCのAI機能を活用することで、多様なデータを複合的に分析、様々なチャネルから得られた顧客情報を学習することで、一定のアルゴリズムに従って順位付けをすることが可能になります。
また、顧客セグメントに応じたメール文を作成したり、ツール・メディアと連携させることでパーソナライズド化されたマーケティング施策の実行や、ターゲティング広告配信が可能になります。
ただしSFCCの導入には、十分な知識やコストが必要である点にご注意ください。Salesforce認定のB2C Commerceのデベロッパー資格保持者数は、2024年11月現在で国内で524名程度と数少なく、誰でも手軽に構築できるというわけではないので、外部のECサイト構築会社に相談されることをおすすめします。
ルビー・グループには、社内にB2C Commerceのデベロッパー資格保持者がおりますし、SFCCの導入実績も豊富ですので、ぜひご相談いただけますと幸いです。
この記事を書いた人
ルビー・グループ コーポレートサイトチーム
各分野の現場で活躍しているプロが集まって結成されたチームです。
開発、マーケティング、ささげ、物流など、ECサイトに関するお役立ち情報を随時更新していきます!