
それぞれの特性をきちんと理解した上で選択をすることが、EC事業の成功に直結するだけに、慎重になるのは当然です。
本記事では、『EC-CUBE』と『Commerce Cloud(SFCC)』について、費用構造から、サーバー・セキュリティ・バージョンアップ、管理画面・マーケティング・複数ストア運営などのあらゆる視点で、徹底比較しています。
「自社のビジネスモデル(売上規模、カスタマイズの必要性)に適したプラットフォームはどちらか」を知りたい方は、ぜひご一読ください。
EC-CUBEとCommerce Cloudの「費用構造」を徹底比較

EC-CUBEの費用目安
『EC-CUBE』は中規模~大規模向けの、オープンソース型のプラットフォームです。
■ライセンス費
無料(オープンソース)
※ただし、ソースコード非公開で運用する場合は商用ライセンスが必要になる場合があります。
■初期費用
・サイト設置/WAF設定など:レンタルサーバーで10万円程度~
・インフラ設計/構築(クラウド/VPS):20万~50万円程度
・オリジナルデザイン/開発カスタマイズ:数十万円~数百万、1,000万円程度まで(機能や規模による)
■ランニングコスト(月額)
・サーバー代:レンタルサーバーで月数百円~1.2万円程度
・保守運用費:レンタルサーバーで月3万円~、クラウドサーバーで月8万円~(保守内容による)
・決済手数料:別途契約が必要
・ドメイン/SSL証明書費用:年間数千円~数万円
■目安料金
数千万円~数億円
<EC-CUBE(ダウンロード版)の特徴>
・基本機能だけであれば低コストで始められる
・自由なカスタマイズが可能だが、そのぶん初期費用・開発費用が青天井になりがち
・サーバー管理やセキュリティ対策は、自社または開発会社で行う必要がある
Commerce Cloud(SFCC)の費用目安
『Commerce Cloud(SFCC)』は、大規模、グローバル展開を検討する企業向けのエンタープライズソリューションです。
■料金体系のベース:GMV(Gross Merchandise Volume)モデル
プラットフォームを通じて行われた総商品取扱高(売上)の一定割合を、ライセンス料としてSalesforceに支払う方式が一般的。具体的な割合は公開されておらず、「要問合わせ」となっている
■隠れたコスト/追加費用
・導入コスト(初期設定): SFCC専門の開発代理店による初期構築プロジェクトで、数十万ドル(約2,000万円〜5,000万円以上)で見積もられることが多い
・継続的な保守/運用: 開発代理店との月額リテイナー契約などが必要になることが多く、ランニングコストが高い
・アドオン/個別モジュール:Salesforce Order Management(注文管理)などは追加料金が必要で、GMVの0.25%〜1%が追加で発生する可能性がある
・プレミアサポート:適用されるライセンス料の30%などが追加される場合がある
■目安料金
数億円
<Commerce Cloud(SFCC)の特徴>
・EC-CUBEに比べて導入・運用コストが格段に高い
・高機能なエンタープライズ向けソリューションである
・費用構造は複雑で、売上(GMV)が増えるほどライセンス料も増加する
<結論>
いずれのプラットフォームも大規模ECサイト向けなので開発費用は他のプラットフォームに比べて高額になるケースが多いです。その分カスタマイズ性能は豊富で実装したいと機能はほぼ実現できます。 『EC-CUBE』を、複雑な要件や高機能を求め、コストよりも堅牢性・グローバル展開を優先する場合は『Commerce Cloud(SFCC)』を選択するのがベターと言えます。
サーバー・セキュリティ・バージョンアップ
それでは次に、「サーバー負荷耐性・管理」「セキュリティ対策」「バージョンアップの費用と負荷」について、『EC-CUBE』と『Commerce Cloud(SFCC)』を比較してみましょう。
【サーバー負荷耐性・管理】比較
サーバー負荷耐性 (スケーラビリティ)
『EC-CUBE』
・耐性:標準状態では大規模なアクセス集中(フラッシュセールなど)には耐えられません。
・大規模対応:大規模ECとして運用するには、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)の導入、DBクラスタ化、リードレプリカDB、オートスケーリングなど、高度なインフラ設計と大規模なカスタマイズが必須となります。
→インフラ設計・構築レベルに完全に依存するため、しっかりとした設計を行えば高い負荷耐性を実現できますが、その分、初期コストや専門知識が必要となる。
『Commerce Cloud(SFCC)』
・耐性:SaaSとして提供されており、Salesforce側でエンタープライズレベルの負荷分散とスケーリングが実装されている。
・大規模対応:アクセス量の増加やトランザクションの急増に対して、システム側で自動的にリソースを動的に調整(オートスケーリング)。
→サーバー負荷耐性は非常に高く、大規模なセールやピークアクセス時でも安定したレスポンスを維持できる設計。導入企業は負荷対策を自前で行う必要がない。
サーバー管理・運用
『EC-CUBE』
運用には専門知識を持つサーバー管理者の確保が必要となり、人件費や委託費がランニングコストに大きく影響する。
『Commerce Cloud(SFCC)』
EC事業者はインフラ管理から解放され、コアビジネス(商品企画、マーケティング、販促)に集中可能に。
<結論>
サーバー負荷耐性・管理の容易さを求めるなら『Commerce Cloud(SFCC)』が優位。高額ではあるものの、インフラの心配をせずにビジネス成長に集中できるという大きなメリットがあります。
トータルコストの抑制や、自由なサーバー環境の選択・カスタマイズを重視するなら『EC-CUBE』。ただし、高負荷対策やサーバー管理の責任を自ら負う(または外部に委託する)ことが前提となります。
【セキュリティ対策】比較
最も重要な違いは、セキュリティ対策の責任範囲です。『EC-CUBE』(オープンソース版/自前インフラ)では自社(またはベンダー)が責任を負うのに対し、『Commerce Cloud(SFCC)』ではSalesforceが責任を負います。
『EC-CUBE』
・共同責任モデル:EC-CUBE本体はオープンソースであり、脆弱性が発見された場合は開発コミュニティからパッチが提供されますが、パッチの適用はEC事業者の責任です。
・インフラ責任:サーバー(OS、ネットワーク、WAF、ファイアウォールなど)のセキュリティ対策は、IaaS(AWS、 Azureなど)を利用している場合でも、OS以上のレイヤーはEC事業者の責任となります。
・リスク:セキュリティ対応が遅れると、不正アクセスや情報漏洩のリスクが高まります。専門知識を持つ人材の確保と、継続的な運用が不可欠です。
『Commerce Cloud(SFCC)』
Salesforceの責任: SFCCはSaaS(Software as a Service)であり、プラットフォーム自体のセキュリティ(インフラ、OS、ミドルウェア、アプリケーションのコア部分)は全てSalesforceの責任で管理・提供されます。
・管理内容:Salesforceは、24時間365日の監視、DDoS攻撃対策、WAF(Web Application Firewall)、侵入テストなどを標準機能として実施しています。
・メリット:EC事業者はセキュリティインフラに関する専門知識やリソースをほとんど必要とせず、常に最新の強固なセキュリティ環境を利用できます。
<結論>
『Commerce Cloud(SFCC)』は、エンタープライズレベルの強固なセキュリティ基盤と運用をSaaSとして提供するため、セキュリティの負担を大幅に軽減できます。
一方、『EC-CUBE』はセキュリティ対策を自社でコントロールできる自由度がありますが、そのぶん常に最新の対策を行うための体制・コストが必要になります。
【バージョンアップの費用と負荷】比較
『Commerce Cloud(SFCC)』は費用はライセンス料に含まれ、負荷は圧倒的に低い一方、『EC-CUBE』はカスタマイズの状況によって費用が高騰し、作業負荷も高くなるという決定的な違いがあります。
『EC-CUBE』(オープンソース版)
・発生費用:カスタマイズ修正費用、プラグイン再購入費、作業工数
・作業の負荷:非常に高い
・バージョンアップの頻度:不定期(セキュリティ対応、機能強化など)
・メジャーアップデート:移行プロジェクトとして発生(費用:数十万〜数百万以上)
・セキュリティ対応:自社でパッチ適用作業を実施
『Commerce Cloud(SFCC)』
・発生費用:基本的にはライセンス費用に含まれる
・作業の負荷:ゼロあるいは非常に低い
・バージョンアップの頻度:定期的(通常年3回、自動適用が基本)
・メジャーアップデート:Salesforceが自動で実施(追加費用なし)
・セキュリティ対応:Salesforceが自動で実施
<結論>
継続的な運用コストと負荷を抑えたいなら『Commerce Cloud(SFCC)』、初期投資を抑えたい、かつ、バージョンアップ時の費用と負荷を許容できるなら『EC-CUBE』がベター。
管理画面・マーケティング・複数ストア運営
続いて、「管理画面の使用感と操作性」「マーケティング施策の自由度」「複数ストア運営(マルチテナント)」に関して、『EC-CUBE』と『Commerce Cloud(SFCC)』を比較してみました。ぜひ参考にしてみてください。
【管理画面の使用感と操作性】比較
この比較は、それぞれのシステムがターゲットとするユーザー層や設計思想の違いが大きく反映されています。
『EC-CUBE』
・ターゲット:日本の中小企業、Web担当者
・UI/UX:シンプル、直感的。機能追加はプラグインが前提
・日本語対応:完全対応
・機能の統合性:基本機能中心。複雑な機能は別画面/プラグイン
・操作の習熟度:低い(比較的短期間で習得可能)
・特徴的なツール:オーダー/商品管理など基本的な機能
『Commerce Cloud(SFCC)』
・ターゲット:大規模/グローバル企業の専門職 (マーチャンダイザー、Web管理者)
・UI/UX:高機能、多機能。専門的な用語や画面が多い
・日本語対応:対応しているが、専門用語は英語が残る場合や用語のローカライズが複雑な場合がある
・機能の統合性:非常に高い。商品・価格・販促・コンテンツが一元管理可能
・操作の習熟度:高い(専門知識とトレーニングが必要)
・特徴的なツール:Business Manager(BM)、Page Designer(PD) など高度な専門ツール
<結論>
ECサイト専任の担当者が少なく、シンプルに運用したい場合は、EC-CUBEがおすすめ。
専任のECマーケティング担当者やマーチャンダイザーがおり、高度な戦略や複雑な販促を一つの画面で完結させたい場合は、『Commerce Cloud(SFCC)』が適しています。
【マーケティング施策の自由度】比較
ここでは「システムに依存しない外部ツール連携の自由度」と「システム内での販促機能の高度さ」の2つの側面で評価してみました。
『EC-CUBE』
・機能の高度さ:標準機能はベーシック。高度な施策は外部ツール連携が必要
・外部ツール連携:非常に高い。自由に選定・カスタマイズして連携可能
・プロモーション設定:基本的なクーポン、割引など。カスタマイズで対応
・コンテンツ自由度:非常に高い。テンプレートを自由に編集可能
・AI/レコメンド:外部ツール連携が必須(SaaS利用など)
『Commerce Cloud(SFCC)』
・機能の高度さ:標準機能が非常に高度。複雑なプロモーションをBM内で完結。
・外部ツール連携:高い。Salesforce製品との親和性が特に高く連携が容易
・プロモーション設定:複雑な多層プロモーション、A/Bテスト、セグメント別施策など標準搭載
・コンテンツ自由度:高い。Page Designerにより、非エンジニアでも変更可能
・AI/レコメンド:標準搭載(Salesforce Einstein)により、パーソナライズが可能
<結論>
「システムに縛られたくない、自由にインテグレーションし費用対効果を追求したツール選定をしたい」という事業者には『EC-CUBE』が最適。
「複雑な施策を高機能なプラットフォーム内で完結させたい。AIレコメンドやセグメント別施策を標準機能として使いたい」という事業には『Commerce Cloud(SFCC)』が向いています。
【複数ストア運営(マルチテナント)】比較
この比較における最大のポイントは、「複数ストア(複数ブランド・複数国など)を一つのシステム基盤でいかに効率的に管理できるか」という点です。
『EC-CUBE』(オープンソース版)
・マルチテナント対応:非標準。カスタマイズまたは複数インスタンス運用が必要
・データ共有:困難。基本はサイトごとにDBを分ける
・インフラ管理:サイト数だけサーバー環境/DBの管理が必要(負荷が高い)
・共通化/効率化:低い。サイトごとに環境構築、アップデート、保守が必要
・グローバル展開:困難。言語・通貨対応はカスタマイズが必須
・バージョンアップ:サイトの数だけ費用と工数が発生
『Commerce Cloud(SFCC)』
・マルチテナント対応:標準搭載(SiteGenesis / SFRA)
・データ共有:容易。商品、顧客、在庫データなどを共通利用可能
・インフラ管理:単一のプラットフォームで全てを管理(負荷が低い)
・共通化/効率化:単一のプラットフォームで全てを管理(負荷が低い)
・グローバル展開:容易。多言語・多通貨・多ロケール設定を標準サポート
・バージョンアップ:単一のSaaSで自動適用(追加費用・工数なし)
<結論>
「単一ストア運営で、自由なカスタマイズと低コストを追求したい」場合は『EC-CUBE』を、 「複数ストア・グローバル展開を効率的に行いたい」場合は、 『Commerce Cloud(SFCC)』を選択しましょう。
求めるのは「自由」か「安定」か
ECサイトの規模や、どのような機能が必要かによって、最適なプラットフォームとトータルコストは大きく変わってきます。
自社のECサイトの想定規模や、特に重視される要件(カスタマイズ性、セキュリティ、運用負荷など)を整理した上で、最適なプラットフォームを選びましょう。
なお、以下で『EC-CUBE』『Commerce Cloud(SFCC)』それぞれに向いているEC事業者についてまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
『EC-CUBE』が向いているEC事業者
『EC-CUBE』は「自由と責任」がセットになったプラットフォームと言えます。そのため、以下のような企業に向いています。
>「高いカスタマイズ性を求める」
『EC-CUBE』はソースコードが公開されているため、システムを自社の業務に合わせて徹底的に作り込みたい企業に最適です。
また、既に利用している基幹システム(在庫、会計、生産管理など)やPOSシステムとの連携において、柔軟なAPIやデータ構造の調整が必要な企業にも最適です。
>「予算を抑えたい」
『EC-CUBE』はオープンソースであるため、ライセンス費用が無料です。そのため、高額なSaaSの月額費用や初期費用を避けたい事業者に適しています。
まずはEC事業を立ち上げ、徐々に規模を拡大していきたいと考えている小規模事業者やスタートアップ、ランニングコストを抑えたい企業に向いていると言えます。
>「技術的なリソースを確保できる」
『EC-CUBE』は自社でシステムの全責任を持つため、技術的な知見やリソースが必要です。
そのためシステムの保守・運用や、セキュリティ対策、バージョンアップ作業を自社でコントロールできる技術力を持つ企業や、『EC-CUBE』の開発実績が豊富で、中長期的な保守・運用を任せられるベンダーと連携できる企業が選択しやすいと言えます。
>「複数店舗展開を考えていない」
EC-CUBEは基本的に単一ストアの運用を前提としています。
グローバル展開や複数のブランドサイトの統合管理を優先せず、まずは一つのサイトを成功させることに集中したい企業に向いています。
『Commerce Cloud(SFCC)』が向いているEC事業者
『Commerce Cloud(SFCC)』は、「高コストと引き換えに、グローバルなビジネス成長と安定稼働を手に入れる」ためのプラットフォームと言えます。そのため、以下のような企業に向いています。
>「システム運用負荷を最小限にしたい」
SaaSであるSFCCは、EC事業者をインフラ管理から解放します。
システム保守・サーバー管理にリソースを割きたくない企業や、セキュリティ対策(PCI DSS準拠、WAFなど)やバージョンアップを、サービス提供者(Salesforce)に任せたい企業に向いていると言えるでしょう。
>「大規模な売上と成長を見込む」
『Commerce Cloud(SFCC)』の料金体系は、GMV(総商品取扱高、つまり売上)に基づくことが多く、高額なライセンス費用が発生します。このコストを吸収できるだけの大きな売上規模を持つ企業や、急速な成長が見込まれる企業に向いています。
>「グローバル展開を志向する」
『Commerce Cloud(SFCC)』は、最初からマルチテナント(複数サイト)とグローバル対応を前提に設計されています。
多言語・多通貨・多ロケールでのEC展開を考えている企業や、複数の国や地域で共通のシステム基盤を使って効率的にECサイトを管理したい企業に向いていると言えるでしょう。
また、複数ブランドを一つのプラットフォームで一元管理し、マスターデータ(商品、顧客)を共有したい企業にも最適です。
>「高度なオムニチャネル・顧客体験を追求する」
『Commerce Cloud(SFCC)』は、SalesforceのCRMエコシステムの一部であり、顧客データを活用した高度なマーケティング施策の実行を可能にします。
オンラインとオフライン(実店舗)のデータを統合し、顧客に一貫した体験(オムニチャネル)を提供したい企業や、AI(Salesforce Einstein)を活用したパーソナライズされたレコメンドや、複雑なセグメント別プロモーションを標準機能として利用したい企業にも向いています。
まとめ
ここまでご覧になっていただいたように、『EC-CUBE』と『Commerce Cloud(SFCC)』にはそれぞれ特徴があり、いかに自社のECサイト運営事業にフィットするかを見極め、選択するかがポイントになってきます。さらに、それぞれの特性を活かした運用をすることが、事業成功の鍵となります。
ルビー・グループはこうしたプラットフォームの選定から、サイト構築、マーケティング、日々の運営、そして物流・カスタマーサポートまで、専門的な知見を持つプロフェッショナルがサポートし、お客様のEC事業を成功に導く役割を担います。
ECサイトのプラットフォーム選びや、EC事業についてお困りのことがありましたら、お気軽にお声がけください。
この記事を書いた人
ルビー・グループ コーポレートサイトチーム
各分野の現場で活躍しているプロが集まって結成されたチームです。
開発、マーケティング、ささげ、物流など、ECサイトに関するお役立ち情報を随時更新していきます!
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