
本記事では、CDN(Contents Delivery Network)の仕組みと基本的な機能から、ECサイトにCDNを導入するメリット、CDN導入時の注意点、ECサイトでのCDN活用成功事例などを解説しています。
「CDNとは何か、ECサイトでの活用効果を知りたい」「ECサイトへのCDN導入のメリット・デメリットを把握したい」という方はもちろん、「自社のEC規模に適したCDN選びの基準を知りたい」「CDNのコスト感や運用負担を理解したい」という方も、ぜひご一読ください。
CDNとは?仕組みと基本機能

大規模なWebサイトでの表示速度の改善や、アクセス集中によるサーバーダウンを防ぐために非常に重要な役割を果たします。
CDNの仕組み
CDNの主な仕組みは、コンテンツのキャッシュ(複製・保存)と、負荷分散に基づいています。
①コンテンツの複製・配置(キャッシュ)
Webサイトの元のサーバー(オリジンサーバー)にあるコンテンツ(画像、動画、CSS、JavaScriptなどの静的なファイル)を、CDN事業者が世界各地に設置した複数のキャッシュサーバー(エッジサーバー)に複製し、保存します。
②最適なサーバーからの配信
ユーザーがWebサイトにアクセスすると、CDNがそのユーザーの地理的に最も近い場所にあるキャッシュサーバーを判断します。
そのキャッシュサーバーにコンテンツがキャッシュされていれば、オリジンサーバーに代わって、コンテンツをユーザーに直接配信します。
これにより、コンテンツが移動する物理的な距離が短くなり、表示速度が大幅に向上します。
③オリジンサーバーの負荷軽減
多くのアクセスがキャッシュサーバーで処理されるため、オリジンサーバーへの直接的なアクセス要求が減り、サーバーやネットワークの負荷を大幅に軽減できます。
CDNの基本機能
CDNが提供する主な基本機能は以下の通りです。
高速配信(パフォーマンス向上)
1.キャッシュ機能
コンテンツをユーザーの近くに保存・配信することで、コンテンツの読み込みにかかる時間を短縮します。
レイテンシの短縮
物理的な距離が短くなるため、データ転送にかかる遅延(レイテンシ)を減らします。
2.負荷分散
トラフィックのオフロード
ユーザーからのリクエストの多くをキャッシュサーバーで処理し、オリジンサーバーへの負荷を肩代わりします。
アクセス集中対策
大規模なキャンペーンやイベントなどでアクセスが集中した場合でも、複数のキャッシュサーバーが分散して処理することで、サーバーダウンのリスクを軽減し、安定したサービス提供を可能にします(可用性の向上)。
3. セキュリティ向上
DDoS攻撃対策
多数の分散されたサーバーが大量のトラフィックを吸収・分散するため、単一のオリジンサーバーで受けるよりもDDoS攻撃に対する耐性が向上します。
オリジンサーバーの秘匿
ユーザーが直接オリジンサーバーにアクセスしなくなるため、セキュリティレベルが向上します。
4. コスト削減
オリジンサーバーからのデータ転送量が減るため、特に大規模なサービスでは、データ転送にかかる帯域幅のコストを削減できます。
ECサイトでCDNを導入するメリット
ECサイトにCDNを導入するメリットは非常に大きく、主に顧客体験の向上、売上の機会損失の防止、インフラコストの最適化につながります。具体的には以下の通りです。
サイトパフォーマンスの向上と売上増加
CDNは、商品画像、動画、CSSなどのコンテンツを、ユーザーに地理的に近いサーバー(キャッシュサーバー)に保存し配信します。これにより、サイトの表示速度が大幅に短縮され、以下のようなメリットを得られます。
①コンバージョン率(CVR)の向上
Webサイトの表示が速いほど、ユーザーの離脱率が下がり、商品購入や会員登録などのコンバージョン率が向上します。
②ユーザー体験(UX)の向上
スムーズで快適なショッピング体験は顧客満足度を高め、リピーターの増加につながります。
③SEO効果
ページの読み込み速度は検索エンジンのランキング要因の一つであり、その高速化は検索エンジン最適化(SEO)にも寄与します。
④アクセス集中への耐性強化
セールやテレビCMなどのプロモーションで一時的にアクセスが急増しても、CDNがそのトラフィックを多数のキャッシュサーバーで分散して処理。アクセス集中によるオリジンサーバー(元のサーバー)の過負荷を防ぎ、サイトダウンや応答遅延による売上の機会損失を防ぎます。
セキュリティと安定性の強化
CDNは、オリジンサーバーの前に位置するため、以下のようにセキュリティレイヤーとして機能します。
①DDoS攻撃対策
大規模なDDoS(分散型サービス拒否)攻撃のトラフィックを、CDNの広範なネットワークで分散・吸収し、Webサイトへの被害を軽減します。
②オリジンサーバーの保護
悪意のあるユーザーがオリジンサーバーへ直接アクセスすることを防ぎ、セキュリティリスクを低減します。
③安定した配信の実現
国内外のどこからアクセスがあっても、最も効率的な経路とサーバーからコンテンツを配信するため、ECサイトの可用性(稼働し続けられる度合い)が向上します。
コストの最適化
CDNがコンテンツの大部分を配信することで、オリジンサーバーからのデータ転送量が大幅に減少。インフラコストの削減が可能になります。
①帯域幅コストの節約
データ転送量に基づくクラウドサーバーやホスティングサービスの帯域幅(転送料)の費用を削減できます。
②サーバー増強の抑制
高負荷時にもオリジンサーバーの負荷が抑えられるため、高額なサーバー増強が不要になる場合があります。
CDN導入時の注意点
ECサイトにCDNを導入する際には、ECサイト特有の課題やリスクを回避するために、いくつかの重要な注意点と専門知識が必要になります。また、導入にあたって必要なコスト要素についても事前に知っておきましょう。
ECサイトへのCDN導入時の注意点
ECサイトへの導入時に特に注意すべきなのは、キャッシュによる事故や情報漏洩のリスクと、コンテンツの即時更新性です。
キャッシュ事故
個人情報や会員情報、カートの中身などの動的なコンテンツ(ユーザーごとに内容が変わるページ)を誤ってキャッシュしてしまうと、他のユーザーに表示され情報漏洩につながるリスクがあります。キャッシュ対象の厳密な設定を行いましょう。
古いコンテンツ配信
キャッシュの有効期限(TTL: Time To Live)を長く設定しすぎると、商品情報や価格、在庫数をオリジンサーバーで更新しても、CDN側では古い情報が配信され続けるタイムラグが発生します。TTLの適切な設定を行ってください。
アクセスログの取得
ユーザーのアクセスはCDNサーバーで受け付けられるため、オリジンサーバーには通常のアクセスログが残らず、アクセス解析や不正検知に支障が出る場合があります。CDNが持つヘッダー情報(X-Forwarded-Forなど)から、ユーザーのクライアントIPアドレスを取得し、サーバー側でログ解析に利用できるように設定しましょう。
IPアドレスによる制限
サーバー側でIPアドレスによるアクセス制限(例:管理画面へのアクセス制限)を行っている場合、CDNを介するとアクセス元IPがCDNのIPになってしまいます。
制限対象のIPアドレスにCDNプロバイダーのIPレンジを追加し、許可設定を行う。または、CDNが通知するクライアントIPに基づきアクセス制御を行うよう、サーバー側の設定を修正してください。
設定・運用に必要な知識
CDNを適切に設定し、運用を安定させるために必要な知識分野は主に以下の通りです。
キャッシュ制御に関する知識
「TTL (Time To Live)」
ECサイトでは、商品ページやトップページなどの特性に応じて、この期間を適切に設定する必要があります(短すぎると負荷軽減効果が薄れ、長すぎると情報が古くなる)。
「キャッシュヘッダー」
Cache-ControlやExpiresなどのHTTPヘッダーを利用して、オリジンサーバー側からCDNやブラウザに対してキャッシュのルールを指示する方法。特に動的なコンテンツを扱うECでは必須になります。
「キャッシュのパージ(Purge)」
オリジンサーバーでコンテンツを更新した際、CDNのキャッシュを強制的に即時削除し、新しいコンテンツに置き換える操作。緊急時の誤情報配信を防ぐために重要になります。
「クエリ文字列の扱い」
URLに含まれる?以降の文字列(例: ?param=123)。これがキャッシュの対象となるか、無視されるかを適切に設定することで、URLのバリエーションによるキャッシュの非効率を防ぐことができます。
ネットワークとDNSに関する知識
「DNS(Domain Name System)」
CDNを導入する際、WebサイトへのアクセスをCDN経由にするために、ドメインのCNAMEレコードなどのDNS設定を変更する必要があり、ドメイン管理の知識は不可欠です。
「SSL/TLS証明書」
HTTPS通信を維持するため、CDNサーバー側にもSSL/TLS証明書の設定が必要になります。そのため、証明書をCDN側で管理するか、オリジンサーバーのものを使うかなどの知識が必要です。
「HTTPヘッダー」
CDN経由でアクセスされた際、リクエストに追加される各種ヘッダー(例:ユーザーの地理情報、クライアントIPアドレス)を理解し、サーバー側で適切に処理する知識。
モニタリングと障害対応に関する知識
「キャッシュヒット率」
運用中に常に監視すべき指標。ユーザーからのリクエストのうち、オリジンサーバーではなくCDNのキャッシュサーバーが応答した割合を指します。この数値が高ければ高いほど、CDN導入による負荷軽減効果が出ていることを意味します。
「ログ解析」
CDNから提供されるログを分析し、パフォーマンスやセキュリティの問題を特定する方法。
「システム障害時の対応」
CDNサービス自体がダウンした場合や、オリジンサーバーとの通信に問題が生じた場合の切り戻し手順(CDNの利用を一時停止する手順)を事前に確立しておく必要があります。
CDN導入の主なコスト要素
CDN導入にかかる費用は、主に以下の3つの要素に分解されます。
①導入・設定費用
CDNサービスの初期設定、DNS変更、SSL証明書の設定などにかかる費用。事業者やプランによっては無料の場合もあります。複雑な設定や既存システムとの連携が必要な場合は、外部の専門業者への依頼費用が発生します。
②CDNの月額利用料 (ランニングコスト)
毎月継続的に発生するCDNサービスの利用料。これが主なコストとなります。基本的には、以下の3つの料金体系のいずれかが採用されています。ECサイトのトラフィック予測に応じて最適なタイプを選びましょう。
(1)従量課金型
実際に配信したデータ転送量とリクエスト数に応じて課金される。固定費は無いか、あっても非常に低い。
(2)コミット型 (固定+従量)
一定のデータ転送量(例: 10TB/月)までは固定の月額料金を支払い、それを超過した分は単価の安い従量料金で支払う。
(3)定額課金型 (パッケージ)
トラフィック量に関わらず、月額固定料金を支払う。機能や帯域幅の上限が設定されている場合がある。
③関連機能の費用
基本サービスに追加するオプション機能の利用料。WAF(Web Application Firewall)や高度なセキュリティ機能、画像最適化機能などの追加料金がこれにあたります。
ECサイトでのCDN活用成功事例と導入ステップ
ECサイトへのCDN導入は、単なる技術的な改善に留まらず、売上と顧客体験の向上に直結する戦略的な成功事例が数多くあります。特にECサイトは、大量の商品画像や動画を配信するため、CDNの効果が顕著に現れます。ここでは、ECサイト特有の課題解決に貢献した、具体的な成功事例のポイントをいくつかご紹介します。
1. 大手ファッションビル系ECサイトの事例(売上とコスト削減)
〈課題〉
繁忙期(セールやイベント時)の突発的なアクセス急増により、Webサイトが重くなり、ユーザーの離脱や購入機会の損失が発生していた。とくに海外向けサイトの表示遅延が顕著で、グローバルでのブランド体験に支障が出ていた。
さらに、アクセス増への対応としてネットワーク帯域を都度調整する手間がかかり、運用負荷が高かった。
<CDN導入による効果>
・高ピーク時の安定配信と売上増
セールなどでアクセスが急増した際も、CDNが負荷を分散することでシステムダウンを防ぎ、より多くのお客様の注文を取り込むことに成功し、売上増加に貢献しました。
・コストと運用効率の改善
CDNによる負荷軽減で、オリジンサーバー側のネットワーク利用帯域が半減し、運用コストも半分以下に削減されました。帯域幅の拡縮設定の手間がなくなり、運用効率が大幅に向上しました。
・グローバルな顧客体験向上
世界各地からのアクセスに対しても表示速度が改善され、ルミネブランドのグローバルな認知拡大に寄与しました。
<成功のポイント>
ソーシャルメディア(例:LINE)での告知直後など、アクセスが瞬時に跳ね上がる状況において、CDNが大量のトラフィックを一手に引き受けることで、目立った離脱者を出すことなく安定稼働を実現しています。
2. 大手ECプラットフォーム企業の事例(セキュリティとパフォーマンスの統合)
<課題>
ECサイトのレスポンス速度をさらに高め、顧客体験を向上させる必要があった。DDoS攻撃や不正アクセスへの対策として、ECサイトのセキュリティ強化が急務だった。
<CDN導入(AWS CloudFront + AWS WAF)による効果>
・応答速度の向上
CDN(Amazon CloudFront)を導入し、画像や静的ファイルをエッジロケーションから配信することで、ユーザーへのコンテンツ配信速度が改善されました。
・セキュリティの強化
CDNのエッジ機能としてWAF(Web Application Firewall)を統合。ユーザーに近い場所でセキュリティ対策を施すことで、オリジンサーバーに悪意あるリクエストが到達する前に防御し、セキュリティを大幅に強化することに成功しました。
<成功のポイント>
単に高速化を図るだけでなく、CDNとWAFをエッジ(ユーザーの最も近い拠点)で統合したことで、高速化と最高レベルのセキュリティを両立し、ECサイト全体の安定性と信頼性を高めています。
3. Webサイトの画像配信に特化した事例(表示速度の劇的改善)
<課題>
商品点数が多く、高解像度の画像ファイルが非常に多いECサイトやメディアサイトにおいて、画像の読み込み遅延が大きな課題だった。画像の最適化(圧縮やサイズ調整)に手間がかかり、ライターや運用担当者の工数を圧迫していた。
<CDN導入(画像変換・配信エンジン)による効果>
・表示速度の劇的な改善
画像CDNを導入し、配信だけでなく、画像を自動で最適な形式(WebPなど)やサイズに変換する機能も利用した結果、Webサイトの表示速度が4分の1程度に短縮されました。
また、Google PageSpeed Insightsのスコアが30点向上するなど、体感できるレベルでの高速化を実現しています。
・データ転送量とコストの削減
画像ファイルの最適化により、ネットワークを流れるデータ量が大幅に削減され、クラウドサーバーの利用費3〜4割削減を実現しています。
<成功のポイント>
「画像」に特化してCDNを導入し、キャッシュ配信だけでなく、自動での画像最適化・変換を行うことで、手動での画像処理の手間をなくし、運用効率とサイトパフォーマンスを同時に高めています。
まとめ
「ユーザー体験の重要性の高まり」や「サイバー攻撃リスクの増大」など、現代のインターネット利用環境と、ECサイトが抱える固有のビジネス課題などから、ECサイトを安定的に運用するために今やCDNの導入は欠かせなくなっています。
われわれルビー・グループは、ECサイトの構築・運用・マーケティング・物流までをワンストップで提供しており、単にCDNを契約するだけでなく、CDNのメリットを最大限に引き出し、ECサイトの売上向上と安定運用に繋げるための全体戦略の立案と実行が可能です。
貴社のECサイトの特性を理解し、ビジネスの成果を最大化するためのCDN戦略を策定するところから、導入後のCDN設定の継続的な監視・調整、ECサイトの信頼性を高めるためのセキュリティとコンテンツの正確性の担保までを実現いたします。
自社ECサイトへのCDN導入について疑問やご相談があれば、お気軽にお声がけください。
この記事を書いた人
ルビー・グループ コーポレートサイトチーム
各分野の現場で活躍しているプロが集まって結成されたチームです。
開発、マーケティング、ささげ、物流など、ECサイトに関するお役立ち情報を随時更新していきます!
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