本記事では、マルチテナント型クラウドベースのECプラットフォームである「Salesforce Commerce Cloud」を使用して、効率的な在庫管理と物流業務の最適化を実現する方法を解説いたします。
「在庫管理や物流を効率化した結果、運営コストが削減されるのか具体的な事例を知りたい」という方はもちろん、「在庫管理を効率的に行う方法や、物流のプロセスを最適化するための機能知りたい」といった方も、ぜひご一読ください。
Salesforce Commerce Cloudを活用した在庫管理の効率化
それではまず、「Salesforce Commerce Cloud」を使い、オンラインショップ、実店舗、倉庫の在庫情報を一元管理する方法をご紹介するとともに、そのメリットについても解説いたします。
セールスフォース・ドットコムが提供する「Salesforce Commerce Cloud」(セールスフォースコマースクラウド)は、顧客管理(CRM)ツールとして世界中で利用されているSalesforce製品の一つである、マルチテナント型クラウドベースのECプラットフォームです。
Salesforceの他製品と連携してECサイトの構築・運営ができ、ビジネス全体のパフォーマンス向上が見込めることから、グローバルでビジネス展開をしているPUMAやアディダス、富士通、任天堂などの企業を中心に、世界中で導入されています。
「Salesforce Commerce Cloud」の特徴は、運用コストの削減と販売強化の2点を両立させながら、ECサイトを構築・運用できる点にあります。EC事業の各種作業を簡略化することで、人件費など運用コストが抑えられるうえに、業務が効率的になるため売上向上も期待できます。
「Salesforce Commerce Cloud」と連携できるシステムの中で、注文管理業務におけるキーとなるのが「Salesforce Order Management」です。従来の注文管理システムでは、マーチャント(店舗・店主)が、在庫管理と注文のフルフィルメント(ECサイトなどで商品を購入した顧客に対して、商品の配送や返品・交換などの処理を行う一連の業務)を行えるようにすることに重点が置かれていました。
一方の「Salesforce Order Management」は、受注・履行・納入・支払処理など、Eコマースの注文プロセス全体をシームレスに接続して自動化し、注文にまつわる一連の流れをすべて処理することを可能にします。
これにより、在庫状況や注文ステータスの把握、簡単な返品作業など、パーソナライズされた注文処理を迅速かつ効率的に行うことが可能になります。また、リアルタイムで在庫状況を追跡し、更新できることで、誤配送や欠品を防ぐことも可能になります。
また、受注処理・決済確認・請求書業務などを、マウス操作で視覚的に作成・調整が可能で、在庫管理においても、オンラインだけでなく実店舗や倉庫などについても正確に把握することができます。
さらに、「Salesforce Order Management」の注文管理と、ECサイト、CRMを連携・統合させることにより、あらゆるチャネルの顧客情報の一元管理が可能に。ユーザー一人ひとりの購入行動や問い合わせ履歴などを把握した上で、より効果的にマーケティングできるようになります。
需給予測と自動化ツールによる在庫補充の効率化
正確な需給予測は、適正な人員配置や予算管理を可能にするだけでなく、精緻な在庫管理もできるようになります。ここでは「Salesforce Commerce Cloud」に搭載されているAI機能などを使った、需給予測などの自動化について解説します。
多くの企業は、販売計画や生産計画を決める際に生産数や在庫数を決定しますが、その際の基準となるのが需給予測です。適切な予測を行うことで、在庫過剰や不足を回避し、在庫管理コストを削減することが可能になります。
「CRM Analytics」は、Salesforceのデータを分析できるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。Salesforceの分析機能である「Analytics Platform」と、AI機能である「Einstein Discovery」を統合した次世代のAI搭載型分析プラットフォームで、蓄積された過去のデータを元に各施策の効果測定を行い、今後のアクションを計画するためのサポートを行います。
「Einstein Discovery」が、無数のデータの組み合わせの中から、自動的に相関性やパターンを検知し、分析結果はシンプルなグラフと説明で提供されます。これにより、現状分析、相関分析、将来今の予測、取るべきアクションを発見できます。
AIにはアンチバイアス機能が複数搭載されているほか、仕組みの透過性が保たれているため信頼性が高く、安心して需要予測に基づいた在庫管理や生産計画が可能になり、ビジネスプロセスの効率が向上します。
さらにEinstein上にあるデータを用いて予測モデルを作成できる機能「Einstein予測ビルダー」を利用すれば、顧客の行動パターンや購買行動を分析し、個別のマーケティング戦略やキャンペーン、売上予測を行うことで、適切な在庫管理や需要予測に基づいた生産コントロールなども可能です(ノーコードで容易に既存のデータ分析ができるなど、従来のAIと比較しても使い勝手がよくなっています)。
このようにSalesforce分析機能やAIを利用すれば、人力でユーザーの行動や売上データを詳細に分析する必要はなく、社内に専任のデータサイエンティストがいなくても精度の高い需要予測が可能になり、最適な在庫補充のタイミングも自動で判別できるようになります。
複数拠点での在庫統合と配送の最適化
「Salesforce Commerce Cloud」は、複数チャネルで販売を行い、各チャネルの注文や在庫を統合管理する「オムニチャネル」を展開している企業におすすめです。ここでは「Salesforce Commerce Cloud」の各種機能を使って、複数の倉庫や販売拠点の在庫をどのように統合し、配送のタイミングを最適化させるかを解説いたします。
現代の消費者はオンライン・実店舗を問わず、常に迅速で簡単なショッピング体験を求めており、注文から配送までの時間をこれまで以上に重要視し、更に、発送日や到着日、現在の配送状況、交換方法等、注文の状況がすぐ分かることを、当たり前のように期待しています。
そのため、あらゆるチャネルにおいて一貫したおもてなしを提供するという「オムニチャネル」を採用する企業が増が増加。複数のチャネルにまたがって存在している顧客の情報や在庫などの情報を統合、チャネル同士を相互連携させるためのシステムの構築を急いでいます。
「オムニチャネル」は、特にアパレルなどの小売業を中心に検討が進められており、対面式の接客で得たオフラインの顧客情報と、ネットショッピングなどで得たオンラインの顧客情報を統合することにより、別々に管理していたあらゆる顧客情報の一元化を実現。
これにより各顧客の最終購入日や購入頻度、累計購入額による的確なRFM分析(顧客の「最終購入日:Recency)」「購入頻度:Frequency」「購入金額:Monetary)」の3つの指標を用いて顧客をグループ分けする分析手法)などができるため、真の顧客評価に基づいた優良顧客の定義やセグメンテーションを確実にすることが期待できます。
「Salesforce Commerce Cloud」に搭載されている注文管理システムである。「Salesforce Order Management」は、「Salesforce Commerce Cloud」の機能を拡張し、注文の更新、簡単な返品など、迅速かつ効率的でパーソナライズされた注文処理を可能にします。また在庫管理においても、オンラインだけでなく実店舗や倉庫などの状況をリアルタイムに把握して、適切に対応できるようになっています。
さらに、ショッピングから出荷、配送までのエンドツーエンドの注文ライフサイクルを管理できる機能「Order Lifecycle Management」と連携することで、製品の種類、フルフィルメントの拠点、配送業者、分割または部分的な出荷など、ニーズに基づいて注文を簡単に処理し履行することができます。
このように各チャネルを連携させ在庫管理を最適化することで、顧客との関係性を良好に保つことができるだけでなく、さらにどこからでも注文や受け取りができるよう物流を含め整備すれば、販売機会の損失を防ぐことも可能になります。
【実際の導入事例】Salesforce Commerce Cloudで物流業務を革新した企業
ここでは、具体的な企業の導入事例を通じて、「Salesforce Commerce Cloud」がどのように在庫管理と物流の効率化を実現しているかを紹介いたします。
受発注効率化で年間1,500万円のコスト削減|大塚倉庫株式会社
そこで、オンラインで受発注を完結できる法人向けECプラットフォーム、いわば“BtoBコマースのAmazon化”を実現するために、「Salesforce Commerce Cloud」を導入することを決めました。
これにより電話やFAXによるデータの手入力を削減し、受発注業務の効率化に注力。結果、電話やFAXの受発注に要するコストは年換算で約1,500万円ものコストが削減されました。さらに5年ごとのリプレイスに約2,500万円かかっていた従来の受注システムのサーバーが不要になったことで、年間約500万円のコスト削減を実現しています。
また、受発注業務が効率化されたことで、発注から納品までのリードタイムも短縮され、ユーザーからの注文の受付時間のリミットが1時間延長できるまで余裕が生まれました。
「ビジネスを拡大していけば、人力で情報を処理することは物理的に不可能になってくる。そしてそこがボトルネックとなり、会社の成長は止まってしまう。その意味でSalesforce Commerce Cloudの導入は、大塚倉庫をよりよい会社へ伸ばしていくために不可欠な措置だったと考えています」と語っています。
店舗とデジタルの融合で、買い物をエモーショナルに|株式会社カインズ
その改革の柱のひとつが「デジタル戦略」であり、ECサイトの開設や、スマホ向けアプリの開発、オウンドメディアやSNSなどの展開にとどまらず、デジタル技術でリアル店舗とオンラインをシームレスに融合させた「IT小売企業」へと進化していくことを目標に掲げています。
同社のデジタル戦略が目指す先は、オンラインだけで完結している世界ではなく、いかにリアルな世界でお客様のストレスを無くし、買い物体験を楽しくして、よりお客様とつながることができるか。店舗とデジタルを融合することによって、店舗だけでは分断されがちなコミュニケーションを、デジタルを通すことで永続性を持たせようと取り組んでいます。
その具体的な施策例が「カインズアプリ」。「店が広くてどこにものがあるか分からない」、「せっかく来たのに在庫がない」といった問題を解決するためのコンシェルジュ的なアプリで、お客様がオンラインで商品を注文・取り置きし、店舗の専用駐車場に車を停めれば、店舗スタッフが品物を車まで持ってきてくれるサービスを実現。店舗が開いている時間に取りに行けない場合は、店外にあるロッカーから自分でピックアップすることも可能にしています。
さらに、どこからでも店舗の在庫情報を見られるだけでなく、ほしい商品が並べられている棚の位置まで店内マップで表示。このように同社では、お客様のストレスを少しでも解消し、買い物自体をエモーショナルにすることを目指しています。
【まとめ】Salesforce Commerce Cloudで実現する効率的な在庫管理と物流
本記事では、「Salesforce Commerce Cloud」を活用した、効率的な在庫管理と物流の実現方法について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
Salesforceは本来、営業支援や顧客データの統合管理に強みがある、顧客関係管理に特化したプラットフォームです。しかし非常に柔軟性の高いプラットフォームであるため、企業のニーズに合わせて在庫管理機能をカスタマイズすることができ、特定の商品や業界の要件に対応したワークフローなどを簡単に作成することも可能です。
また、クラウドベースでの管理により、どこからでも在庫データにアクセス可能であり、リアルタイムでデータを更新できるため、商品の在庫状況が常に最新の状態で管理できます。これにより、販売活動や補充業務を迅速に行うことができるのが最大の特徴になります。
さらに、他の業務システムとのシームレスな統合により、在庫管理データを営業や財務データと連動させ、企業全体の業務効率を向上させられるといったメリットもあります。
ただし「Salesforce Commerce Cloud」の導入やカスタマイズには、十分な知識やコストが必要であり、誰でも手軽に構築できるというわけではないので、外部のECサイト構築会社に相談されることをおすすめします。
ルビー・グループには、社内にB2C Commerceのデベロッパー資格保持者がおりますし、Salesforce Commerce Cloudの導入実績も豊富ですので、ぜひご相談いただけますと幸いです。
この記事を書いた人
ルビー・グループ コーポレートサイトチーム
各分野の現場で活躍しているプロが集まって結成されたチームです。
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